先にアップした「星読み中学生 水星逆行編」の続きです。

初めて小説を書いて、誰かに読んでもらうということをしたので、ドキドキしています。

でも、意外に書くのが楽しかったので、まだ続けようと思います。

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夕暮れに差し掛かり、宵山が始まった。

笛や太鼓の音が遠くから聞こえてきたと思ったら、15分後には境内に山車が入ってきた。

昼過ぎにはまだ組み立て中だった屋台には早くもお客さんが来ていて、かき氷やたこ焼きを手に山車が入って来るのを眺めている。

俺が座っている御札所にもお守りやお札やおみくじを欲しい人が続々と集まってきて、しばらく忙しかった。

気がつけば日が暮れていて、山車や拝殿に吊るされた提灯が明るくなっていた。

境内にはたくさんの人が来ている。

笛や太鼓も小休止して、山車を曳き廻していた法被姿の男衆があちこちに座り込んでビールを飲みながら休憩したり、久しぶりーと肩を組んだり、子どもを肩車して山車を見せている人もいる。

俺のいる御札所は、境内が広く見渡せるから、祭りの楽しげな雰囲気を内側から見られる特等席だなと毎年座る度に思う。

神社のお札番は、俺と母さんと叔母さんで交代でやっている。

神主の叔父さんや手伝い係の父さんは今日は夜遅くまでご祈祷やら氏子総代さんの対応やら、儀式の準備やらで忙しい。

母さんと叔母さんも今は台所の方が忙しい。

だから、ほとんどの時間は一番暇な俺が座っていた。

ここは自宅や学校からは離れているから友だちも来ないし、屋台は後で空いてから行こう。

叔父さんが今日と明日のお札番をしたらそこそこの小遣いをくれるので、毎年屋台で豪遊するのが楽しみだった。

と言っても、田舎の小さな祭りだからそんなにたくさんの出店はなくて、俺が小さな頃から比べたら更に減っていて、寂しいなと思う。

父さんが子どもの頃はもっと屋台がひしめき合っていたと懐かしそうに話していたけれど、俺も見たかったな。

そういえば昼間、こんな僻地でクラスの女子に会ったんだった。

池野さんという、一学期に席が俺の前だった子でおとなしそうというか、席が近い割に必要最低限しか話したことがなかった。

去年までは違う小学校だったから、どんな子かもよく知らない。

でも、おばあちゃんがこの近所に住んでいるらしくて、お使いでお札をもらいに来て、俺が昼間、お札番をしているときに偶然会った。

あれはびっくりしたなー

思わず、水星逆行の話をほとんど話したことがない女子にしてしまった。

水星逆行どころか、占星術のことだって結構マニアックな話題だ。

俺は普段は友だちのハルキにしか話さない。

話した途端「あ、やってしまった!」と思ったが、池野さんは全然引かずにそれは何かと聞いてくれて、二度びっくりした。

つい調子に乗って、さらに占星術や水星逆行のことを早口で説明してしまった。

我に返って、今度こそ、引かれたかなと思ったけれど、なぜか「ありがとう!」と言われた。

何がありがとうだったのか?

俺の方が聞いてくれてありがとうだ。

俺の占星術好きは母さん譲りだ。

よく先生なんかが「人の気持ちを考えましょう」とか言うけれど、俺にはそれがとても難しく思える。

自分にとって当たり前だと思うことが、他の人にはそうじゃない。

好きなもの、楽しいこと、嫌がること、一所懸命になるもの。それらが全部人によって違うのに、自分以外の人のことなんか分からないと母さんに言ったことがあった。

そしたら「わかるようにはならないけれど、人の気持ちを考えるヒントはくれる」と言って、星読みのことを教えてくれた。

星読みのことを説明してくれるホームぺージや動画もあって、俺の知識は全部それらの受け売りだ。

蟹座は相手の感情に敏感

天秤座は周囲との 調和を大事にする

などとわかってくると、例えば俺なら気にしないだろうなということを気にしている友だちに「気にしすぎ」などと言わないようになった。

みんな大事にしていることが違うんだなと、俺は占星術で学んだ。

だから占星術を知っておけば、自分の頭の中だけで相手のことを決めつけずに済むような気がする。

それは、たくさんの人がいる学校や、大人になってから出ていく社会では必要なことだと思えた。

誕生日が分からなくても、大体何月生まれかなんて、以外と知る機会がある。

今の時期、8月初めごろが誕生日なら間違いなく太陽星座は獅子座だ。

特に今はライオンズゲートと言って...

「おみくじ、お願いします!」

俺は、ハッと我に返った。

御札所の前に池野さんがまた来ていた。

今度は浴衣姿で祭り仕様だ。

おみくじ代の50円玉を差し出していた。

内心、今日3度目のびっくりをしながらも無言でおみくじの入っている縦長の筒を渡した。

池野さんは重そうにガラガラと筒を降って中から番号の書いた棒を出した。

八十七番

後ろの棚から87番を探して1枚渡した。

「あ!大吉!」

嬉しそうな顔をしたので、こちらもつい「良かったね」と返す。

その後はじっと熱心に大吉のおみくじの文面を見ていたが「お守りにする」と大事そうにたたんで、巾着袋にしまっていた。

「50円て安いね。おみくじ。前に家の近所の神社で引いたときは300円ぐらいしたよ。」

「父さんや叔父さんが若いころも50円だったって言ってたから、昔から50円で値上げしていないんだろうね。」

小さな子どもでも買える値段だから、去年の夏祭りに低学年ぐらいの集団が一気に買いにきて、おみくじの筒から棒がなかなか出ないとガキんちょ達が力任せに振り出してヒヤヒヤしたことを思い出した。

「あの...ライオンズゲートって何?」

池野さんがまた前のめりになっていた。

「昼に来たときに、高山くんが言ってたでしょ?今はライオンズゲートが開いているって。」

そうだった。

昼に池野さんが来たとき、星読みのことを聞いてくれたのが嬉しくて、ついつい、最近の星読みトピックスを更に話しそうになったんだった。

(続く)