オディの古瓶 -1-

「あれは確か25年前、オディがまだ生きていた頃…」

という家族の謎のひとり言

から何となくはじまった

チャネリングストーリーの続き -2-です。



ほとんど語らない心情を

五感の表現に映し、

金星 牡牛座 2ハウス

あたりの感覚を意識して書いてみました。


あなたの感性に

ふっと灯る何かがあったなら嬉しいなぁ。



˖✻*˸ꕤ*˸*⋆。˖✻*˸ꕤ*˸*⋆


しばらく霧の中を歩き続けると
いつの間にか、もう

山小屋は見えなくなっていた。



……すこし疲れたな


足元へ視線を落とした、右側に
ふと、違和感を感じた


目を向けると、
若い鹿が一頭、じっとこちらを見ている




「あ……」


思わず声が漏れたけれど、
鹿は逃げる様子もなく、
ただ、そこに立ち続けている




数秒。
視線が合っただろうか。



鹿は身を翻し、

森の奥へ跳ねて見えなくなった


その拍子に、
地面で鈍い音がしたのを見ると

赤い玉が、

苔の上を転がっている…


「りんご…」


まだ、みずみずしさが残っている

それを拾い上げて、

鹿の消えたほうを見ると、

木と木のあいだに、

人ひとり分ほどの細い道ができていた。



道というほどはっきりしていないけれど、
自然と、
ボクはりんごを持ったまま、
そのほうへ歩き出していた。


道に入ると、
足元がカサカサと音をたてている

落ち葉が、
茂みの根元にたまっているのだ


3歩ほど進むと、
地面の質感が変わったのが、
足の裏で分かった

少し湿って、フカフカしている


ただ、そんなことよりも

心の赴くまま、入っていった。



しばらく行くと

少しだけ開けた空間が現れた

目の前には、

ひとまわり大きな樹が立っている。



その根元には、
ポコポコと、丸い影がある

近づくと、
土が盛り上がり、
隙間から、淡い色のきのこが
いくつか顔を出しているのが見えた



(……少し、気味がわるいな)


少しゾクッとして立ち止まると
上からパラパラと、

木くずのようなものが落ちてきた。



目を上げると、
枝の間で、
小さなものが動いていた


どんぐりを両手で持ち、
鼻先をヒクヒクさせて、
こちらを見ている



「……リスか」


言葉にするより早く、
リスは木を駆け下り、
地面に穴を掘って、
どんぐりを押し込みはじめた


冬の間のご飯を、
隠しているのだろう

ボクの視線を、
少しだけ気にしているようにも見えた


息を潜める必要もなく、
追いかける理由もなく

ふふ、と口元だけで笑いながら、

ぼんやりと眺めていると、


次の瞬間、
小さな影は、
樹の向こう側へ消えていった。



さっきまでの霧が嘘のように、

頭上からは、暖かな光が降り注ぎ


みずみずしい空気は、
清々しさとなって、
頬や肺を潤していく



ボクは、
ふっと身体が緩むのを感じていた


「……少し、喉が乾いたな」


そう思った瞬間、
水の音が、
かすかに聞こえたような気がした


「水、こんなところに……」


リスが駆けていった
その奥のほうで、
光の雰囲気が、少しだけ変わっている。


どこまでも木が立ち並んでいると思っていた
その奥に、じっと目をやると

小さく、
それでも脈々と、
水が流れているのが分かった




ボクはゆっくりと歩み寄って
左手を、水へ伸ばしてみた


(冷たい―けれど、やわらかい)


そのまま口元へ運び、
一口、飲んだ



後ろで、
鳥が一羽、バサリと飛び立ち、
その振動が、森全体へすっと広がった。


「あ、そうだ……りんご」


ボクはリュックから取り出し、
水で軽く洗って、一口かじった


じゅわっとした甘酸っぱさを飲み込むと、
喉から、ぞくぞくと、
震えのような波が上がってくる


何だか分からないけれど、
ぼんやりしていた自分の輪郭を、


身体が「ここだ」と
示してくれているような気がした。


「……ふう少し、休もう。」


リスのいた大木の根元へ戻ろうと、
足元に置いていた古瓶を、手にした


——ん?


ついさっきまでと

変わらないはずの古瓶がなぜか、
小さく重心を落ち着かせて、
手に、しっくりと馴染んでいる気がした。



大樹の根元に腰かけながら

ぼんやりと地面を見ると

まだ若い木の芽が出ている


「どんぐり、か」


樹とリスと水と…

いのちが巡っているのを、ただ感じながら

ボクは黙ってりんごをかじった。