【土星が導く未来】

夜空を見上げると、そこには変わらない星たちが輝いている。どんなに時間が流れても、どんなに人生が移り変わっても、星は静かに私たちを見守り続けている。

ふと、幼い頃の記憶がよみがえった。

祖父の家の縁側に座りながら、私は空を見上げていた。夏の夜だった。虫の声が響き、草の匂いがほんのりと漂っていた。手のひらほどの小さな望遠鏡を覗きながら、私は祖父に尋ねた。

「おじいちゃん、この星はどこへ向かってるの?」

祖父はいつものように優しく笑いながら、私の髪をくしゃっと撫でた。

「星はね、それぞれに道を持っているんだよ。ほら、あの土星を見てごらん。」

私は望遠鏡を動かしながら、リングのついた土星を探した。

「あった!」

土星は夜空の中で小さく光りながら、確かにそこにあった。

「土星はね、試練を与えてくれる星だ。でもね、試練を乗り越えた者には、かけがえのない宝物をくれるんだ。」

祖父の言葉は、当時の私にはよく理解できなかった。試練ってなんだろう? 宝物って何のことだろう? ただ、土星のリングがきれいだな、と思っただけだった。

──あれから、何年が経っただろう。

今、私は人生の岐路に立っている。何を選べばいいのか分からないまま、焦りと不安の中にいる。まるで、進むべき道が霧に包まれて見えなくなったような気分だった。

仕事では壁にぶつかり、思うような結果が出ない。人間関係もぎくしゃくし、心が疲れてしまうこともある。何をやってもうまくいかない日々が続くと、「自分は間違っているのかもしれない」と思わずにはいられない。

そんなとき、私はふと夜空を見上げた。

そこには、あの頃と変わらない土星が輝いていた。

──そうか、今の私は土星の試練の中にいるのかもしれない。

気づけば、祖父の言葉が心の奥底からよみがえってきた。

「試練を乗り越えた者には、宝物が待っている。」

今までは何となく生きてきた。目の前のことをこなし、流れるままに日々を過ごしてきた。でも、土星が与える試練には意味がある。今のこの苦しみも、何かを気づかせるために訪れているのかもしれない。

土星は、厳しい先生のような存在だ。すぐには答えを教えてくれない。乗り越えるまでに時間がかかることもあるし、途中でくじけそうになることもある。でも、そこで逃げずに向き合った人だけが、本当の意味で成長できる。

──もしかすると、私は今、その成長の途中にいるのかもしれない。

深く息を吸って、もう一度夜空を見上げた。

土星は変わらずそこにあった。

「よし、もう少しだけ頑張ってみよう。」

未来はまだ見えないけれど、きっと大丈夫。

だって、この試練を越えた先に、私だけの宝物が待っているのだから。

この瞬間、私は気づいた。人生の転機は、私たちに選択を迫る。どの道を進むのか、どんな決断をするのか、それは簡単なことではない。けれど、試練があるからこそ、人は成長し、本当に大切なものを見つけることができる。

「土星が試練を与える星なら、それを乗り越えたときに得られるものは何だろう?」

そう考えると、私は少しだけ前向きな気持ちになれた。

もしかすると、今の私は“変わるためのチャンス”を与えられているのかもしれない。

土星の影響を受けるとき、人は自分と向き合うことを求められる。これまで避けてきた問題、無意識に目を背けてきたこと、それらと真正面から向き合う瞬間がやってくる。そして、それを受け入れたとき、私たちはひとつ成長し、強くなる。

私が今抱えている不安や焦りも、土星がくれた“学び”なのかもしれない。

──過去の私は、ただ流されるように生きていた。

でも、これからは違う。自分の意志で、未来を選んでいこう。

土星の試練を受け入れ、乗り越えた先には、私だけの輝く未来が待っているのだから。

ーENDー