前略
はじめて夏至というものを自分のものとして体験したのはいつだったか、覚えていますか?
わたしは小学生だったときに読んだ漫画ででした。
地球から遠く離れたある惑星は、何十年も冬が続くのだと話されます。その星の太陽をまわる軌道が細長い楕円なのです。でもその代わり、短いけれどそれはそれは豪勢な夏が来るのだといいます。
その短い夏に夏至のお祭りが行われるのだとありました。
昭和に生まれたわたしの小学生時代は、いまと違って梅雨はきっちり梅雨だったので、毎年の夏至近くは雨や曇りの日がほとんどでした。
だから夏至にお祭りがあると聞いても(ほんとうは、読んでも、ですが)、なんだかピンときませんでした。
夏至って雨が降るしまだ少し寒いし、夏ってかんじじゃないよなぁ、と思ったりして。
もしかしたら辞書や事典なんかで夏至について調べたかもしれません。それで六月二十日前後と知って、夏じゃないかんじ、と思ったのかもしれません。
けれど、想像してみました。何十年も冬のまま過ごしたあとでやってくる、それはそれは豪勢だという夏のことを。あらゆる花があちこちに咲き誇っている様子を。その惑星に住む人々が喜び歌い集う様子を。
そうやって、地球の北半球で感じられている夏至と、遠い星に訪れるたった数ヶ月の春から秋の間に祝われる夏至とを、ゆっくり自分のなかに収めていきました。それは夏至を、カレンダーに書かれたただの記号から、自分を含めたひとびとの営みのひとつへと変えていくことだったと、いま思います。
今年の夏至は、朝から暑くなり、あのとき読んだ架空の星の豪勢な短い夏を思い出しました。
あなたにとって夏至ってどんなふうでしょうか? 記憶に残る夏至の思い出はありますか? お話聞けたらうれしいです。
よい夏至の一日を。
かしこ
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とりあげた漫画は、清原なつの「飛行少年モッ君の場合」。
コミックス『あざやかな瞬間』、『桜の森の満開の下』、文庫『アレックス・タイムトラベル』に収録されています。