私が「解放」という言葉に出会った日
40歳で会社を辞めて占星術カウンセラーとして独立する、と決めた時のことです。
周りからは「もったいない」「安定を捨てるなんて」という声がたくさん聞こえてきました。正直、私自身も怖かったんです。IT企業での安定した収入、社会的な肩書き、「システムエンジニア」という職業的アイデンティティ。それらを手放すことが、本当にできるのか。
でも、不思議なことに、その決断をした瞬間、胸のあたりがすーっと軽くなったんです。
それまで何年も背負っていた重いリュックを、やっと下ろせた感覚。「ああ、これが解放なんだ」って、体で理解した瞬間でした。
占星術を学び、たくさんのホロスコープと向き合う中で気づいたことがあります。それは、多くの人が「何かを得ること」ばかり考えていて、「何かを手放すこと」の大切さに気づいていないということ。
でも、星の動きを見ていると分かるんです。人生における本当の成長や変容は、実は「解放のプロセス」の中で起きているんだ、って。
今日は、占星術の視点から見た「解放へのプロセス」について、お話しさせてください。自己探求の旅において、この「解放」というテーマは、避けて通れない大切な道なんです。
占星術における「解放」とは──星が示す手放しの時期
占星術では、いくつかの天体や現象が「解放」や「手放し」のテーマと深く関わっています。
まず、天王星。
この天体は「突然の変化」「革命」「自由への衝動」を象徴します。天王星が私たちの重要な天体(太陽や月など)に触れる時、それまで「当たり前」だと思っていたものが、突然窮屈に感じられることがあります。これは、天王星が「古いパターンから解放されなさい」と促しているサインなんです。
次に、冥王星。
冥王星は「徹底的な変容」を表す天体です。でもその変容は、必ず「何かを手放すこと」とセットになっています。古い自分が死んで、新しい自分が生まれる。そのプロセスで、もう必要ないものを手放していく。冥王星のトランジット(空を動く冥王星が、あなたの生まれた時の天体に影響を与える時期)は、しばしば人生の大きな解放の時期と重なります。
そして、見落とされがちですが、実は12ハウスも解放と深く関係しています。
12ハウスは「目に見えない世界」「無意識」「手放しと癒し」の領域。ここに天体が集まっている人は、人生のどこかで「執着を手放す」というテーマに向き合うことが多いんです。
私がこれまで見てきたホロスコープの中で、人生の大きな転機を迎えている方のチャートには、必ずと言っていいほど「解放」を促す星の配置がありました。
それは時に、サターンリターン(土星回帰)という、29歳前後と58歳前後に訪れる人生の節目かもしれません。この時期、私たちは「本当に大切なもの」と「もう必要ないもの」を見極めるよう、土星に促されます。
あるいは、海王星のトランジットかもしれません。海王星は「境界を溶かす」天体。それまでしっかり握りしめていたものが、霧のように消えていく体験をもたらすこともあります。これは一見辛い経験ですが、実は執着からの解放のプロセスなんです。
占星術を使った自己探求の面白いところは、こうした「解放の時期」が、単なる偶然ではなく、宇宙のリズムと連動しているということ。星は私たちに「今、手放す時ですよ」と、優しく(時に強引に)教えてくれるんです。
解放を妨げるもの──チャートに現れる「執着のパターン」
でも、頭では「手放したほうがいい」と分かっていても、なかなかできないことってありますよね。
私のセッションでも、「この関係性、もう疲れたんです」「この仕事、合っていないと思うんです」と言いながら、なかなか手放せない方がいらっしゃいます。
なぜ、私たちは手放すことが難しいのか。
ホロスコープを見ていると、その答えが見えてくることがあります。
例えば、金星が土星とハードな角度(スクエアやオポジション)を作っている方。金星は「愛」や「価値」を表す天体ですが、そこに土星の「制限」「恐れ」のエネルギーが加わると、「手放したら、二度と愛されないかもしれない」という恐怖が生まれやすいんです。
以前、こんなクライアントさんがいました。
彼女は金星と土星がオポジションの配置を持っていて、長年付き合っているパートナーとの関係に悩んでいました。「この人といても幸せじゃない。でも、この年齢(彼女は38歳でした)で別れたら、もう誰とも出会えないかもしれない」と。
私たちは一緒に、彼女のチャートを見ながら対話しました。そして気づいたんです。彼女が手放せないのは、パートナーそのものではなく、「誰かと一緒にいる自分」という状態への執着だったんだと。
土星は時に、私たちに「失う恐怖」を与えます。でも同時に、「本当に必要なものを見極める知恵」も与えてくれる天体です。
他にも、冥王星が強い配置の方は、コントロールへの執着が手放しを妨げることがあります。月が蟹座や牡牛座にある方は、安心感や慣れ親しんだものへの執着が強く出やすい。火星が逆行で生まれた方は、「戦うべきか、手放すべきか」という葛藤を抱えやすい傾向があります。
これらは決して「悪い配置」ではありません。ただ、私たちそれぞれに、「手放しにくい理由」があるということ。そしてその理由を知ることが、解放への第一歩なんです。

解放のプロセス──段階的に手放していく星の知恵
解放は、一瞬で起きることもあれば、長い時間をかけて段階的に進むこともあります。
私自身の経験と、これまで見てきた多くのチャートから、解放には大きく分けて4つの段階があると感じています。
第1段階:気づき(認識のフェーズ)
まず、「これを手放す必要がある」と気づくこと。
占星術的に言えば、これは水星(認識、思考)や天王星(気づき、覚醒)が関わる段階です。何かのきっかけで、「あれ? このパターン、もう私には合っていないかも」と感じる瞬間があります。
この段階では、まだ手放せなくても大丈夫。ただ「気づく」ことが大切なんです。
第2段階:感情の波(受容のフェーズ)
次に、手放すことへの感情が湧いてきます。悲しみ、怒り、恐れ、喪失感。
これは月や海王星、冥王星が関わる段階。特に海王星のトランジット中は、涙が止まらなくなるような、深い感情の波を経験することがあります。
私が独立を決めた時も、この段階が一番しんどかったです。「本当にこれでいいのか」「失うものが多すぎるんじゃないか」と、何度も何度も揺れ動きました。
でも、この感情の波を通り抜けることが、本当の手放しには必要なんです。悲しみを感じ切る。怒りを感じ切る。そうすることで、執着のエネルギーが少しずつ解けていきます。
第3段階:決断と行動(手放しのフェーズ)
そして、実際に手放す決断をし、行動に移す段階。
これは火星(行動)や太陽(意志)、そして土星(責任ある決断)が関わります。具体的に、関係性を終わらせる、仕事を辞める、引っ越しをする、古いものを処分する、といった行動を取る時期です。
この段階は勇気が要ります。でも、ここを通り抜けないと、本当の解放は訪れません。
第4段階:統合と再生(新しい自分のフェーズ)
最後に、手放した後の「空白」に、新しいものが入ってくる段階。
これは木星(拡大、成長)や冥王星(再生)が関わる時期です。不思議なことに、本当に手放した後には、必ずと言っていいほど、新しい出会いや機会が訪れます。
でも、それは私たちが「空けたスペース」があるからこそ、入ってこられるんです。両手いっぱいに古いものを抱えていたら、新しいものは受け取れませんから。
この4つの段階は、きれいに順番通りに進むわけではありません。行ったり来たりすることもあります。でも、このプロセスを知っているだけで、「今、自分はどの段階にいるのか」が分かり、少し楽になることがあるんです。

実践ワーク:「解放のホロスコープ・ジャーナル」
ここで、私がセッションでもよく使う、解放のための実践的なワークをご紹介します。
これは「解放のホロスコープ・ジャーナル」と呼んでいる方法で、星の動きと自分の内側の変化を記録していくものです。
用意するもの
ノート(できれば解放専用のもの)
あなたのホロスコープ
現在の星の動き(トランジット)が分かる情報
ワークの手順
ステップ1:手放したいものをリストアップする
まず、ノートを開いて、今あなたが「手放したい」と感じているものを書き出します。
人間関係、仕事、習慣、信念、感情パターン、物質的なもの...何でも構いません。正直に、思いつくまま書いてください。
私自身も、このワークをした時、びっくりするくらいたくさんのものが出てきました。「完璧でいなければならない」という信念、「周りに嫌われたくない」という恐れ、使っていない資格の教材...。
ステップ2:それぞれに星を紐づける
次に、あなたのホロスコープを見ながら、それぞれの「手放したいもの」が、どの天体や配置と関連しているか考えてみます。
例えば:
「完璧主義」→ 乙女座に天体がある、土星が強い
「依存的な関係性」→ 金星と冥王星のアスペクト
「周りの期待に応えすぎる」→ 天秤座の太陽、7ハウスに天体
これは、専門的な知識がなくても大丈夫。「なんとなく、この天体っぽいな」という直感でOKです。
ステップ3:星からのメッセージを受け取る
それぞれの天体に、こう問いかけてみてください。
「この執着を、私はなぜ持っているの? そして、手放すために何が必要?」
そして、その天体が答えてくれると想像して、ノートに書いてみます。
例: 問い:「土星さん、私はなぜこんなに完璧主義なの?」 土星の答え:「それは、あなたが幼い頃、完璧でないと認められなかった経験があるから。でも、もう大人のあなたは、完璧じゃなくても価値があることを学べるよ」
これ、やってみると分かるんですが、思いもよらない答えが出てくることがあるんです。それは、あなたの無意識からのメッセージなんですね。
ステップ4:満月に手放しの儀式をする
占星術では、満月は「手放し」のタイミングと言われています。
次の満月の夜、ノートに書いた「手放したいもの」を一つ選んで、こんな儀式をしてみてください。
別の紙に、手放したいものを書く
声に出して読み上げる:「私は〇〇を手放します。ありがとう、さようなら」
その紙を破る、または燃やす(安全に配慮して)
深呼吸をして、手放したスペースに光が入ってくるイメージをする
私は、大きな決断をする前に、必ずこの儀式をやります。象徴的な行為ですが、不思議と心が軽くなるんですよ。
ステップ5:解放の記録を続ける
そして、このノートに、定期的に記録を続けていきます。
今日、少し手放せたこと
手放しの過程で感じた感情
新しく入ってきたもの
特に、天王星や冥王星のトランジットがある時期、サターンリターンの時期、あるいは日食や月食の前後は、解放が起きやすい時です。星の動きと自分の内側の変化を記録していくと、そのシンクロニシティに驚くことがあります。
手放した先に待っているもの──解放がもたらす自由と成長
少し前に、メールで近況報告をくださった方がいました。
その方は、1年前のセッションで、20年以上続けていた仕事を辞めるかどうか悩んでいました。その時、彼女のチャートでは天王星が太陽にちょうど重なる時期(コンジャンクション)で、「変化と自由を求める時」だったんです。
でも、彼女は怖くて、なかなか決断できませんでした。
それから半年後、彼女は思い切って退職しました。そのメールには、こう書かれていました。
「最初の数ヶ月は、自分が何者なのか分からなくて不安でした。でも今は、あの時手放して本当に良かったと思います。新しい仕事は収入は少し減ったけれど、毎日が充実しています。何より、自分らしく生きている実感があります」
解放の先には、必ず「新しい自分」が待っています。
でもそれは、手放す前には見えません。手放した後に初めて、「ああ、私が本当に必要だったのは、これだったんだ」と気づくことが多いんです。
私自身も、IT企業を辞めた時、収入面での不安はありました。でも今振り返ると、あの時手放したのは、単なる「仕事」ではなく、「他人の期待に応え続ける生き方」だったんだと思います。
そして、手放したことで得られたもの。
それは、自分の時間、自分のペースで働ける自由、そして何より「本当にやりたいことをやっている」という、心の底からの満足感でした。
占星術を学ぶ中で、私が一番感動したのは、星が「循環」を教えてくれることです。
生まれて、成長して、ピークを迎えて、そして手放す。また新しいサイクルが始まる。
私たちの人生も同じです。何かを得る時期があれば、手放す時期もある。そしてその両方が、成長には必要なんです。
手放すことは、失うことじゃない。次のステージに進むための、必要なプロセスなんです。

今、あなたが手放せるもの
この記事を読んでいるあなたも、もしかしたら、何か「手放したいけど、手放せない」ものがあるかもしれません。
それは、もう合わない人間関係かもしれない。 窮屈に感じる環境かもしれない。 「こうあるべき」という古い信念かもしれない。
もし、そうだとしたら。
あなたの星は、今、「解放の時期」に入っているのかもしれません。
怖いですよね。手放すのは。私も何度も経験しているから、その気持ちは本当によく分かります。
でも、握りしめている手を少しだけ緩めてみてください。
最初は、指一本分だけでもいい。少しずつ、少しずつ、手を開いていく。そうすると、風が入ってきます。新しい光が差し込んできます。
あなたのホロスコープは、あなたの可能性の地図です。そして、その地図の中には、「手放すことで開く道」も描かれているんです。
今日からでも遅くありません。小さなものから、手放してみませんか。
もう着ない服、読み終わった本、終わった関係への未練、自分を縛る「べき」という言葉...。
一つ手放すたびに、あなたの心には新しいスペースが生まれます。そのスペースに、きっと、あなたが本当に必要としているものが入ってきますから。
解放へのプロセスは、時に痛みを伴います。でも、その痛みの先には、必ず自由があります。本当の自分で生きる喜びがあります。
星はいつも、あなたを応援しています。 手放す勇気を持つあなたを、宇宙は祝福しています。
私も、占星術カウンセラーとして、これからも多くの方の「解放へのプロセス」に寄り添っていきたいと思っています。一人じゃないですよ。星も、そして私も、あなたの旅を見守っています。
今日という日が、あなたにとって、何か一つを手放す勇気を持てる日になりますように。