春分の朝、
まだ番号も名もない小さな宝石が、
タロットカード0番の外縁から一歩を踏み出した。
風は真新しい鞄の紐を鳴らし、
犬のような白い光と白い小波が足もとで跳ねる。
崖は始まりの刃、恐れは切り落とされた。
私はフール、けれど心は苛烈な牡羊座――
火花の最初の音だ。
躊躇は硝子の靄、息をかければ吹き消える。
荒野は地図より先に燃え、私の中の火星がコンパスになる。
角のように尖る意志で、朝露を割って進むたび、
内側の原石がひと打ちずつ星に近づく。
誰かの「まだ早い」は、私には合図に聞こえる。
ジャンプの瞬間だけ、世界は純粋な透明になるから。
背の小包に入れたのは、
昨日の失敗と、
磨けば光る約束だけ。
太陽が昇る。
私の影は短く、鼓動は速い。
行き先は知らない。だが名は知っている。
始まりという名だけ。
私という刃先が、空を初めて切り裂く、
その赤い朝。